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| ■薔薇の肖像 |
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【中山 忠彦先生】 ばら垣の聖母子
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アルザス地方の古都コルマールは神聖ローマ帝国の面影を随所に残す美しい
小さな町である。
私達が訪れたのは、グリューネバルトの「イーゼンハイムの祭壇画」を見るのが
目的であったが、九つに及ぶ場面の、執拗な描写の凄まじさに圧倒され、その息苦
しさを癒す為に静かな町中を言葉も無く歩いていた。
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薔薇の花冠(未完)
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古びた通りの一角から不意に民族衣装をまとった女性達が連れ立って視野の
中を音も無く通り過ぎていく。一瞬白日夢か、とも思いながら彼女達が消えたと
おぼしき後を辿ってみた。
行き当たった聖堂から流れてくる少年合唱の「野ばら」に誘われるままファサード
から入ると薄暗い奥に燭火に浮かぶ様に安置された「ばら垣の聖母子」があった。
マルティン・ショーンガウアーの作である。
グリューネバルトの聖母子にも象徴としての薔薇は描かれてはいたが、燈りの中
で、はるかに情愛に満ちた画像が暖かい。
思いがけない邂逅のもたらした安息とシューベルトの調べの美しさと、いささか出来
すぎた舞台ではあったが、イーゼンハイムとは対照的な雰囲気の中にグリューネバ
ルトの呪縛から解かれて佇んでいた。
美術が信仰から離れて久しい。
然し時を経ずして歴史の中に踏み込んで対面した「キリスト磔形図」の不安な激しさ
と、「聖母子」の限りない平安との両岸の狭間を、現代の自分たちも流れ続けてい
ると考えずには居られなかった。
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